2018年12月26日

ラディカルな意志のスタイルズ、発売です。

スーザン・ソンタグの第二評論集『ラディカルな意志のスタイルズ』の完全翻訳版が発売されました。書店でお見かけの際は、ぜひお手にとってみてください!

【目次】

 I
 沈黙の美学
 ポルノグラフィ的想像力
 みずからに抗って考えること シオランをめぐって

 II
 演劇と映画
 ベルイマンの『仮面/ペルソナ』
 ゴダール

 III
 アメリカで起こっていること
 ハノイへの旅

 訳者解説「解釈者から訪問者へ ソンタグ・リポートの使用法」波戸岡景太

 訳者あとがき 管啓次郎


△ 河出書房新社より、12月末発売。

2018年12月5日

新訳書の刊行(予告)



版元:河出書房新社(リンクはこちら

スーザン・ソンタグの名著を、管啓次郎先生と共に翻訳いたしました。刊行は、今度のクリスマスを予定しています。[完全版]と銘打っているのは、日本では分冊となっていた「ハノイへの旅」(『ハノイで考えたこと』)と、いずれの訳書にも未収録の「アメリカで起こっていること」が、原書通りの位置に収まっていることに由来します。また、お気づきのとおり、"Styles of Radical Will"というタイトルの複数形も、その意味するところを大事しようと、カタカナ表記に含めました。私の長めの解説、そして、管先生の美しいエッセイのようなあとがきとともに、ご一読いただけましたら幸いです。

2018年11月27日

『作家と楽しむ古典』第四巻刊行

河出書房新社より発売中のシリーズ『作家と楽しむ古典』第四巻に、古川日出男さんと私の対談が掲載されました。機会がありましたら、ぜひご一読ください!
*詳細は、古川さんの特設HPで!





2018年11月20日

シンポジウム「環境をアダプトする」告知


来月に行われる、もうひとつのシンポジウムのおしらせです。今年最後の学会発表は、日本アメリカ文学会東京支部の12月例会となります。環境思想とアダプテーション理論を融合した先に、いったい何が立ち現れるのか。建設的で実験的で挑戦的な議論の展開をめざします!

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日本アメリカ文学会東京支部12月例会
シンポジウム「環境をアダプトする:エコクリティシズムと視覚芸術」 

司会・講師:波戸岡景太(明治大学)
講師:野田研一(立教大学名誉教授)
講師:齊藤弘平(青山学院大学)
講師:日高優(立教大学) 

概要:
今年は、“ecocriticism”なる概念がMLAで正式に紹介されてから、ちょうど20年という節目の年にあたる。本シンポジウムでは、成熟しつつあるこの批評理論を今一度見直しつつ、アメリカの視覚芸術を対象として、その応用可能性を検証していく。
視覚芸術における「自然」のあり方は、これまで“representation”をめぐる思想の中核をなすものとしてさまざまに議論されてきた。初期エコクリティシズムにおいては、表象行為の主体を、人間から環境へとずらすことが課題とされてきたが、グローバリズムやマテリアリズムといった視点を得て、現在では、そうした「人間と環境」というシンプルな関係を前提とすることはむずかしくなってきている。また、ひとくちに「表象」といったところで、私たちが手にしたり目にしたりする作品のほとんどは、「表象の表象の表象の……」といった具合に、無限ともいえる表象の連鎖の果てに成立するものであり、その元となった対象へと遡行することは容易ではない。
絵画にせよ、写真にせよ、あるいはドキュメンタリーをうたった映像作品にせよ、そこに描き出される「自然」や「環境」は、表象行為の前提のような姿をしているけれど、その実情は、表象行為があることによって事後的に立ち上げられたものなのではないか。こうした問いかけは、近年、アメリカ国内外でその成果がさかんに報告されている“adaptation”をめぐる研究においても本質的なものとされる。本シンポジウムでは、エコクリティシズムがその始まりから議論の対象としてきた自然表象の不可能性を、異なるメディアのあいだでの表象の変換プロセス、すなわち“adaptation”という概念を導入することにより、新たな視点から論じていきたい。

日時:2018年12月8日午後2時開始
場所:慶應義塾大学三田キャンパス

詳細はこちらをどうぞ。

2018年10月11日

特別シンポジウム「古川日出男、最初の20年」告知


12月1日、古川日出男さんのデビュー20周年記念イベントを、私の所属する明治大学の大学院プログラム・総合芸術系が主催となって開催いたします。場所は、都心からのアクセスのよい中野キャンパス。土曜日の午後をまるまる使ってのシンポジウムですので、どの時間からでも、お気軽にお立ち寄りください!

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特別シンポジウム 「古川日出男、最初の20年」

理工学研究科建築・都市学専攻<総合芸術系>では、今年、小説家デビュー20年を迎えた古川日出男をめぐるシンポジウムを開催いたします。彼の作品を追いつづけてきた批評家・翻訳者たちが一同に会し、古川文学の魅力を徹底的に解き明かします。

日時:2018年12月1日(土) 午後13時30分~18時(予定)
場所:明治大学中野キャンパス5階ホール
入場無料/予約不要

発表者
Gianluca Coci(トリノ大学)
Michael Emmerich(UCLA)
Doug Slaymaker(ケンタッキー大学)

小澤英実(東京学芸大学)
柴田元幸(東京大学)
島内景二(電気通信大学)
杉江扶美子(INALCO博士課程)
谷崎由依(小説家)
波戸岡景太(明治大学)

琵琶演奏 川嶋信子
映像作品 河合宏樹

古川日出男

司会 管啓次郎(明治大学)

主催:明治大学大学院 理工学研究科 建築・都市学専攻<総合芸術系>

2018年10月1日

ロッジ49の「原作」

先月のブログで、アメリカのドラマ「ロッジ49」を紹介しましたが、今回はその「原作」となるJim Gavinの小説集『ミドル・メン』についてです。ピンチョン(『ヴァインランド』『LAヴァイス』)やコーエン兄弟(『ビッグ・リボウスキ』)らが描いてきた「西海岸系ダメ男」を、もう少しだけ「リアル」にしてみせたといった感じの本作は、発売当時、まったくと言ってよいほど注目を集めませんでした。ですが、その「地味」さは、西海岸の生活を知る人の心を捉えて離しません。というわけで、今夏の「まさか!」のドラマ化を経た後の、全米、そして世界での評価が気になるところです。以下では、試みに、表題作の冒頭を拙訳で引用してみましたので、雰囲気だけでもお楽しみください!

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 少年の頃、マット・コステロはいつも不思議だった。毎朝どこかへ出かけていく父さんは、いったい何の仕事をしているのだろうと。父さんが何かを売っているというのは知っていたし、ガレージに積まれたパンフレットやカタログから察するに、それがトイレに関係しているらしいことも知っていた。でも、それはまったく冗談みたいで――トイレって!――、そんな仕事をしたがる人間がいること自体、マットには理解できなかったのだ。  

 数年後、大学がうまくいかなくなり就職を考え始めたマットは、ようやく父さんに、どうして配管業者になろうとしたのかと聞いた。一九六九年にヴェトナムから帰還したとき、とりあえず人生の目標と呼べるのは、エアコンの効いた職場で働くということだけだったからなぁ。父さんの口調は、いつもながらに穏やかで、ユーモラスだった。それで、希望通りの求人があったから応募して、雇われたのがトイレ業者の注文担当だったのさ。場所は、南ロサンゼルの工業地帯のあたりだったっけ。  
 
 そうやって選んだ先に待っていたのが、配管設備セールスマンとしての一生だなんて、運命のいたずらってのは笑えるな、とマットは思った。というか、そんなふうに思いながら、マットはバーテンをやったり、母校の高校でサッカーを教えたり、大学もちゃんと卒業しないままに、二十代を浪費したのだった。  
 
 そして、母さんが倒れた。マットは仕事を全部やめてアナハイムに帰ると、それからの一年は、化学療法に苦しむ母さんの世話をした。すでに母親を癌で亡くしている親友もいたから、心の準備はできていた。遅かれ早かれ、誰にでもそれは起きることなのだ。親友たちはみな、母親の死後を粛々と過ごしていて、その姿は感動的ですらあった。だから自分も、とマットは思い、彼らと同じストイック・クラブの一員となってやり過ごそうとしたのだけれど、いざ母さんが死んでしまうと、親友たちの生き方は何の参考にもならなかった。  
 
 性格のきつい母さんは、いつも無表情で、心の底から現実的だった。癌が脳に転移する前、母さんは自分の葬儀について綿密な計画を立てた。退場の際の賛美歌として「鷲の翼」を希望したり、棺桶に入るときのドレスを買って来るよう娘たちをJCペニーズ百貨店に走らせたりした。「派手すぎるのはいけないよ」と母さんは言った。  
 
 母さんが死んでしまい、苦しみと喪失感に襲われたマットは、それなりの見返りがあってもいいはずだと感じた。差し出される順番にはこだわらないけれど、神聖なる超越の瞬間が訪れたり、思いやりある美女が手を差し伸べてくれたり、それから、いくらかのまとまった金が手に入ったり……といったことを、彼は密かに期待していたのだ。けれど、三十歳にして彼は、一文無しになり、実家ぐらしだった。同じ家族でも本当にストイックな妹たちは、どちらも引越していき、ふたたび仕事を始めていた。  
 
 午後になると、からっぽの家に残されたマットは、プールサイドに座って、水が緑色になっていくのを見た。夜になり、父さんが寝てしまうと、母さんが使い残した鎮痛剤のバイコディンを大量に飲んで、ドラマ「ジ・オフィス」を何度も何度も観た。クリスマス・スペシャルの、ティムがデヴィッド・ブレントと飲みに行くんだと言うシーンには、観るたびに胸を締めつけられた。  
 
 もう十分すぎるくらいだった。葬儀から一ヶ月がたち、父さんがアイアス配管会社の上司であるジャック・イサハキアンに相談をすると、彼は、トイレ販売の職をマットに紹介してくれた。他にあてもないマットは、それに従った。あれから一年、いまや己の虚栄心と愚かさをしっかりとわきまえたマットは、コンプトンにあるアイアスの倉庫で、今日もセールス・ミーティングに参加している。(続く)

『ミライミライ』書評

学会誌『文学と環境』に、古川日出男さんの長編小説『ミライミライ』(新潮社、2018)の書評を寄稿しました。本作は、実験的なのに愛に溢れたいつもの古川節をいつも以上に堪能できる一冊です。ぜひ、ご一読ください!(下の画像をクリックすると、拡大されます)




2018年9月14日

週間読書人の書評

本日付の週間読書人に書評を寄稿しました。15日以降は、Web版も公開されるそうです。お時間のあるときに、ぜひ!(https://dokushojin.com/article.html?i=4240


2018年9月7日

「ロット」ではなく「ロッジ」49?

先月からアメリカで始まったドラマLodge 49のシーズン1が、とにかくすばらしい! ピンチョンの「ロット49」を強烈に意識しながらも、映画『インヒアレント・ヴァイス』以後をしっかりと見据えた、誠実な作品に仕上がっています。オンライン配信もあるので、日本でも全話視聴が可能です。秋の夜に、ぜひ!


2018年8月9日

哈爾濱フィールドワーク

中国は黒竜江省にある哈爾濱(ハルビン)に行ってきました。ここは昔からずっと気になっていた場所のひとつなのですが、ちょうど大学院の教え子である劉くんが哈爾濱出身ということもあって、この夏ついに訪問が実現。

劉くんは、日本語の達人なので、現地でも何不自由なくフィールドワークができました。特に、今回どうしても訪れたかったのが、「ハルビン市建築芸術館分館」。ここはかつてのユダヤ教シナゴーグです。

旧ユダヤ教新シナゴーグの内部

また、街の北側を流れる松花江も散策し、第二の目的である「亜道古魯布水岸餐庁」(1912年にオープンした旧東清ヨットクラブ)も無事に見つけることができました。現在はレストランになっている同館の展示コーナーには、この土地を生きたさまざまな人々(中国、ロシア、ユダヤ、日本)の写真や記録が飾られていました。

旧東清ヨットクラブの外観

そして、メインストリート「中央大街」から南へ10分ほど車を走らせたところにあるのが、黒竜江省博物館。



一見シンプルな入口の印象に比べて、建物の中はなかなかの広さです。哈爾濱におけるロシア文化の展示はとても力が入っていて、近現代・哈爾濱のスタートである、十九世紀末にこの地に敷かれた鉄道のイメージも強烈に印象に残りました。

劉くんが卒業したハルビン理工大学の校舎

鉄道と川と民族と。国際都市・哈爾濱を考える、その第一歩となる貴重な旅でした。